「免責不許可事由にある偏頗弁済ってなに?」
「税金や家賃を支払っても偏頗弁済になるの?」
個人再生や自己破産など裁判所を通じた債務整理は、申立をすればどんな場合でも認められるというわけではありません。
個人再生・自己破産に至る前の状況、してしまった行為によっては、申立をしても認められないケースもあります。
個人再生・自己破産が認められない理由となってしまう行為のことを「免責不許可事由」といいます。
偏頗弁済は、この免責不許可事由の1つですので、発覚すると個人再生・自己破産が認められなくなる可能性があります。
本ページでは、偏頗弁済とはなんなのか、偏頗弁済をしてしまうとどんなことが起きるのかについてご説明します。

偏頗弁済とは?
偏頗弁済とは、個人再生・自己破産の際に問題となる免責不許可事由(裁判所に認められない理由)の1つです。
複数のカード会社から借金をしている人が、ある一部のカード会社にのみ偏って借金を返済してしまうことをいいます。
偏頗弁済は「債権者平等の原則」に反している
偏頗弁済がなぜいけないかというと、個人再生・自己破産は「債権者平等の原則」というルールに基づいて行われているからです。
債権者平等の原則とは、あなたにお金を貸しているすべてのカード会社を平等に扱わなければならないというルールです。
個人再生や自己破産は、借金が大きく圧縮されたり、0になったりする、非常に効果の強い債務整理です。
これらを行うことにより、ある一部のカード会社だけが得をしたり、損をしたりすることを防ぐために、債権者平等の原則が定められています。
免責不許可事由とは
偏頗弁済をはじめとする免責不許可事由とは、個人再生や自己破産を申し立てても失敗してしまう理由のことをいいます。
免責不許可事由は個人再生・自己破産によってそれぞれ異なります。たとえば、自己破産の場合では、以下のようなものが挙げられます。
<主な自己破産の免責不許可事由>
- カード会社に不利益を与える意図がある場合
- 一部のカード会社に偏って返済してしまった場合(偏頗弁済)
- 浪費やギャンブルなどによって借金を抱えてしまった場合
- 自身の収入などに嘘をついて借金を重ねていた場合
- 申立の際、財産状況などの申告で嘘をついていた場合
- 裁判所の調査・指示に従わなかった場合 など
以上のようなことがあると、自己破産を申し立てても失敗に終わってしまいます。
ただし、免責不許可事由には「裁量免責」という制度があり、その人に反省がみられたり、以後改善の余地があると判断されたりした場合、免責不許可事由があっても債務整理を認めてくれる可能性があります。
たとえば、「浪費やギャンブルで借金をしてしまったから、自己破産は絶対無理」というわけではありません。
「もうギャンブルで借金をしません」という本人の意志表示や行動の改善が認められれば、裁判所に自己破産を認めてもらえるケースもありますので、諦めずにまずは弁護士事務所に相談してみましょう。

偏頗弁済の要件
具体的に、どんな場合に偏頗弁済と判断されてしまうのでしょうか?
以下では、偏頗弁済の要件についてご説明します。
どんな行為が偏頗弁済になる?
偏頗弁済になる可能性があるのは「支払い」です。
支払いについては、前述の通り、複数のカード会社から借金をしているのに、ある一部のカード会社にだけ返済をしている場合、偏頗弁済と判断されます。
また、お金を借りている相手が親族・友人など個人であっても偏頗弁済は成立します。
そのため、カード会社からの借金は返済していないのに、親族・友人からの借金だけ返済しているという場合にも偏頗弁済しているという判断になります。
いつから偏頗弁済とみなされる?
実は、個人再生や自己破産の必要がない人の場合、偏頗弁済をしてはいけないというルールはありません。
返済期間や返済額さえ守っていれば、あなたの思う優先順位で借金を返済してかまいませんし、ある借金だけに抵当権などの担保を設定してもいいわけです。
偏頗弁済が問題になるのは、借金の返済が滞ってしまったり、弁護士が受任通知を送付したりしてからです。(借金の返済が滞る前でも受任通知送付後は支払停止となります)
返済額が大きくなったり、収入が少なくなったりして支払えなくなった借金があるにもかかわらず、一部のカード会社にだけ支払いを続けていたりすると、偏頗弁済とみなされてしまいます。
そのため、個人再生や自己破産の手続き開始後に、一部のカード会社だけに支払いをしてしまうと、それが偏頗弁済とみなされ、個人再生・自己破産が否認されてしまうケースもあります。
どんなときに偏頗弁済が起きる?
実際には、どのようなときに偏頗弁済をしてしまう人が多いのでしょうか。
以下では、偏頗弁済が起こりやすい状況をいくつかご紹介します。
親戚・友人からの借金を優先的に返済してしまう
前述の通り、偏頗弁済の対象となるのは、カード会社からの借金だけではありません。
個人再生・自己破産を行う際は、親族・友人など個人からの借金も、カード会社からの借金と同等に扱わなければなりません。
多くの人は借金の返済が難しくなると、「親戚・友人などに迷惑をかけたくない」という思いから、カード会社への返済に先駆けて、親戚・友人らへの返済を優先してしまいがちです。
個人再生・自己破産を行うときは、これらも偏頗弁済と判断されてしまいますので、注意しましょう。
保証人のいる借金を優先的に返済してしまう
保証人のいる借金がある人の場合、上と同様に、「保証人に迷惑をかけたくない」という思いから、保証人のいる借金だけを優先的に返済してしまうと、偏頗弁済とみなされてしまいます。
保証人のいる借金を持つ人が個人再生や自己破産を行うと、その借金は圧縮・免除されることなく請求が保証人に行ってしまい、保証人に大きな迷惑がかかります。
保証人もその借金の返済が難しいという場合、あなたが個人再生・自己破産をしたために、保証人まで債務整理を検討しなければならなくなることもあります。
しかし、偏頗弁済をすればその個人再生・自己破産が失敗に終わる可能性は高いので、保証人に迷惑がかかることを覚悟して手続きするしかありません。
あと少しで完済の借金を完済してしまう
個人再生・自己破産を検討する人の多くは、複数のカード会社から借金をしている「多重債務」状態にあります。このような人のなかには、「10社から合計600万円の借金をしているけど、そのうち数社はあと4〜5万円支払えば完済」という人もいます。
あと数万円で完済となると、「個人再生・自己破産のまえにこれだけでも完済してしまおう」と考える人もいますが、これこそが偏頗弁済です。
借金の返済が厳しくなった段階で平等に支払いをストップし、個人再生・自己破産を検討することにしましょう。
自動車ローンなど担保のある借金を優先的に返済してしまう
自動車ローンのある人が個人再生・自己破産を行うと、借金の負担が軽減する代わり、自動車を没収されてしまいます。
これは、自動車がローンの担保になっており、返済できなくなるとカード会社に没収・売却されてしまうためです。
個人再生・自己破産を行う人が、自動車がなくなったら困るからといって、自動車ローンだけ完済を目指して優先的に支払ってしまうと、これも偏頗弁済に該当します。
滞納した家賃・携帯電話料金
また、滞納した家賃・携帯電話料金などをまとめて支払うことも偏頗弁済にあてはまります。
ただし、毎月発生する家賃・携帯電話料金などを、決められた期日までに支払うことは、偏頗弁済ではありません。
あくまで、滞納した家賃・携帯電話料金などがある場合は、手続前に弁護士に伝え、勝手に支払いをしないように注意しましょう。
税金など支払っても偏頗弁済に値しないものもある
一方、いつ支払っても偏頗弁済にならないものもあります。
それは、税金・社会保険料など、公的な支払い義務があるものです。
また、前述の通り、毎月発生する家賃・携帯電話料金などは、滞納したものでない限り、借金の返済ができなくなった後や、個人再生・自己破産の手続き中も支払って構いません。
個人再生の場合、住宅ローンの返済も偏頗弁済に該当しない
個人再生では、「住宅ローン特則」という制度を利用することによって、個人再生の対象から住宅ローンだけを除外でき、マイホームを残して債務整理することができます。
住宅ローン特則を利用して個人再生を行った場合に限り、住宅ローンの返済は偏頗弁済に含まれません。
偏頗弁済をすると債務整理を失敗する可能性も
個人再生や自己破産の手続き中に偏頗弁済が発覚すると、どのようなことが起きるのでしょうか。
以下では、偏頗弁済が発覚した場合、起きることについてご説明します。
個人再生後の計画弁済額が高くなる
個人再生後は、再生計画案によって決定された計画弁済額を3年間(36回払い)で返済していきます。
計画弁済額は、借金総額や財産の量(清算価値)などに応じて決定されます。
もし、偏頗弁済があると、あなたが財産を多く持っていて清算価値が高いと判断され、計画弁済額が高く設定されてしまう可能性があります。
偏頗弁済をしている場合、その額は清算価値に加算されます。
たとえば、自動車・株などの財産が100万円分ある人が、200万円分の偏頗弁済をしていると、その人の清算価値は300万円ということになります。
1000万円の借金をしていた場合、法律で定められた最低弁済額(最大の圧縮額)は、5分の1の200万円です。
この場合、清算価値が最低弁済額よりも高いことになるので、清算価値である300万円が計画弁済額に設定されてしまいます。
このように、偏頗弁済をすることによって計画弁済額が上がってしまう可能性があるわけです。
自己破産の手続きが長期化する
偏頗弁済が発覚すると、自己破産の手続きにかかる時間が長期化する恐れがあります。
自己破産には、「同時廃止事件」と「管財事件」という2つの種類があり、申し立てる人の財産の量などに応じて裁判所が判断します。
管財事件は、同時廃止事件に比べ予納金が高額です。
偏頗弁済をしてしまった場合、自己破産が管財事件と判断されてしまい、予納金を多く支払わなければいけなくなってしまいます。
自己破産では偏頗弁済が否認される
自己破産の申立て時に偏頗弁済が発覚すると、破産管財人によって、その返済が否認されてしまうこともあります。
ここでいう「否認」とは、一部のカード会社だけに支払った偏頗弁済が返済として認められず、カード会社からその返済額を返却してもらわなければならなくなることです。
返却されたお金は、あなたの手元ではなく、破産管財人のもとに渡り、配当金として借金をしていたすべてのカード会社に、平等に分配されます。
つまり、偏頗弁済をしてしまうと、偏って返済していたカード会社にも迷惑がかかってしまうのです。
免責不許可事由により個人再生・自己破産が失敗してしまう
偏頗弁済をすると、個人再生・自己破産が認められず、失敗に終わってしまうこともあります。
前述のように、程度によっては免責不許可事由には裁量免責が認められ、偏頗弁済をしていても個人再生・自己破産を認めてくれることがあります。
たとえば、滞納していた家賃を偏頗弁済していた程度であれば、裁量免責とみなしてくれる場合が多いです。
しかし、特定のカード会社に害を与えようとしていた場合など、悪質な場合には失敗してしまいますので注意しましょう。
偏頗弁済が犯罪になってしまうこともある
偏頗弁済が、特定のカード会社に害を与えようとしているなど、意図的で悪質なものと判断された場合、犯罪とみなされることもあります。
たとえば、自己破産前に、あるカード会社と結託してマイホームを抵当権に設定した場合などです。
しかし、個人再生・自己破産の手続前に催促されて滞納した携帯電話料金を支払ってしまったなど、悪意がない場合は犯罪とはなりませんのでご安心ください。

まとめ
- 偏頗弁済は免責不許可事由にあたる
・免責不許可事由とは
・債務整理を失敗する恐れがあるのでしてはいけない - 偏頗弁済はこんなときに起こる
・偏頗弁済とは一部のカード会社だけに偏って借金を返済すること
・親族・友人などへの借金でも偏頗弁済に該当する
・返済が難しくなり、滞納がみられるようになった段階から偏頗弁済と判断される
・税金の支払いなどは偏頗弁済に含まれない - 偏頗弁済をするとどうなる?
・個人再生後の計画弁済額が高くなる
・自己破産の手続きが長くなる
・免責不許可事由に該当し、失敗する可能性がある
・犯罪が成立することもある