「個人再生のハードシップ免責とはどんな制度なのか?」
「ハードシップ免責が認められる条件とは?」
個人再生は借金の減額はしてもらえますが、その残りを原則3年間で返済する必要があります。
そのため、借金返済中に、病気やリストラといったやむを得ない理由により、返済ができなくなる場合もあるでしょう。
そのような人を救う制度として整備されたのが、ハードシップ免責です。
ハードシップ免責を認めてもらうためには、以下4つの条件を全て満たすことが必須となっています。
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ハードシップ免責は、申請条件の厳しさから、実際に利用されることはほとんどありません。
また、ハードシップ免責の認可を受けた場合には、住宅ローンが残っている自宅を失うというリスクもあるため、慎重に検討する必要があるのです。
そこで今回は、個人再生のハードシップ免責にフォーカスして、その制度の詳細や申請条件などについて解説したいと思います。

個人再生のハードシップ免責とは
まず、ハードシップ免責が、どのような制度なのか説明します。
個人再生とは
個人再生とは、裁判所に申し立てすることで借金を1/5~1/10まで減額し、残りの借金を原則3年間(最大5年間)で返済できれば完済扱いにしてもらえる債務整理(借金問題を法的に解決するための手続き)の1つです。
ただし、個人再生は、減額された借金を返済していく必要があるため、申請条件に「安定した継続収入があること」が必須となっています。
しかし、無事に個人再生できたとしても、なんらかの理由で借金の返済ができなくなる人もいるものです。
そこで、そのような人を救うための制度として、ハードシップ免責が作られました。
ハードシップ免責の概要
ハードシップ免責とは、なんらかの理由により個人再生後の借金返済が不可能になった人を対象に、一定の条件を満たすことで裁判所から残りの借金を免責(チャラにすること)してもらえる制度です。
つまり、ハードシップ免責が受けられれば、残りの借金が全てチャラにしてもらえるため、その場で個人再生は終了となります。
しかし、実際には、ハードシップ免責が利用されることはほとんどなく、地方裁判所ではあまり実例がありません。
その理由は、ハードシップ免責を認めてもらうための条件が非常に厳しいからだと推察されます。
そのため、東京地裁や大阪地裁といった大きな裁判所でも、数件の事例がある程度なのです。
なぜハードシップ免責ができたのか
個人再生すると、再生計画というものに基づいて借金の返済をしていくのですが、途中で返済不能になった場合には、通常であれば自己破産の手続きに移行します。
しかし、ほとんどの借金を返済したにも関わらず、病気やリストラといったやむを得ない理由によって、自己破産扱いになってしまうのはあまりにも厳しい措置と裁判所が判断したため、そのような人への救済措置としてハードシップ免責が整備されたのです。
ハードシップ免責すると住宅ローンはどうなるのか
ハードシップ免責による、住宅ローンの扱いについて説明します。
住宅ローン特則とは
個人再生には「住宅ローン特則」と呼ばれる、借金を減額してもらいながら、住宅ローンが残った自宅を手元に残せるという制度があります。
ただし、借金は減額されたものを原則3年間(最大5年間)で返済していけばOKですが、住宅ローンに関しては、個人再生前と同じように返済していくことが必須条件です。
個人再生は、住宅ローンの借金返済に悩むサラリーマンを救う制度として整備されたという背景があるため、こうした制度が整備されていきました。
住宅ローンも免責対象
ハードシップ免責では、原則として全ての借金が免責対象となりますが、以下の借金については免責対象外となります。
- 個人再生前に受けた罰金
- 悪意ある不法行為による損害賠償請求など
したがって、ハードシップ免責の認可を受けた場合には、住宅ローンも免責対象となるため、残りの住宅ローンが全てチャラになるわけです。
住宅ローンが残った自宅は失うことになる
ハードシップ免責が確定すると、住宅ローンがチャラになるため、「自宅の扱いはどうなるの?」という疑問が浮かんでくることでしょう。
結論からいうと、ハードシップ免責を受けた場合には、住宅ローンが残った自宅は失うことになります。
したがって、ハードシップ免責を受けられたとしても、借金がチャラにしてもらえた上に、住宅ローンの支払いも免除され、自宅まで手に入るといった夢のようなことには決してなりません。
なぜなら、ハードシップ免責では、ローンを組んだカード会社(クレジットカード会社・消費者金融・銀行)が持つ担保権や別除権には一切影響を及ぼさないからです。
担保権とは、住宅ローンの返済ができなくなった場合に備え、土地や家を担保にすることで有事の際にローンの返済に充当できる権利で、別除権とは破産手続きの有無にかかわらず、カード会社が自由に住宅を競売にかけることで住宅ローンの回収に充てられる権利となっています。
したがって、住宅ローンが残っている自宅を持つ状態でハードシップ免責が確定すると、自宅を失うことになるわけです。

ハードシップ免責が認められる条件
ハードシップ免責を裁判所に認めてもらうためには、以下4つの条件を全て満たす必要があります。
あなたに責任のない事情によって再生計画通りの借金返済が不可能な状態であること
まず、「あなたに責任のない事情によって再生計画通りの借金返済が不可能な状態」である必要があります。
「あなたに責任のない事情」とは、借金が返済できなくなった原因が、リストラや病気などあなたの故意や過失によるものではないということです。
よって、浪費やギャンブルなどで作った借金は、免責対象外となります。
再生計画による借金の返済期間を延長しても返済が不可能な状態であること
次に、「再生計画による借金の返済期間を延長しても返済が不可能な状態」であることです。
個人再生すると原則3年間で残った借金を返済する必要があるのですが、やむを得ない事情だと裁判所に判断された場合に限り、最大5年間まで返済期間を延長してもらうことができます。
しかし、それでも借金の返済が不可能という場合には、ハードシップ免責を利用するしかありません。
つまり、個人再生で最大まで延長できる期間内でも、借金を返済できない場合に限り、免責が認められるというわけです。
再生計画で定めた借金総額の3/4以上を返済していること
「再生計画で定めた借金総額の3/4以上を返済している」ことも重要な条件です。
当然ですが、お金を貸したカード会社側の立場からすれば、ほとんど借金を返していない状態で免責が確定してしまうと、非常に大きな損害を被ることになります。
そのため、カード会社の利益を守るという観点から、ハードシップ免責を受けるためには、借金の大半を返済していることが条件になっているのです。
ハードシップ免責の決定がカード会社の一般の利益に反しないこと
最後の条件は、「ハードシップ免責の決定がカード会社の一般の利益に反しない」ことです。
ここでいう「カード会社の一般の利益に反しない」とは、カード会社への清算価値の支払いを保証すると言い換えられます。
なお、「清算価値」とは、自己破産した際に裁判所が財産を処分し、カード会社に分配する金額のことです。
また、個人再生には、「清算価値保証の原則」というルールがあるため、借金を減額してもらった場合には、最低限自分の財産以上の金額は支払うことで、カード会社の利益を守ることが必須条件となっています。
そして、この清算価値を保証することが、「一般の利益に反しない」という意味なのです。
したがって、カード会社には、あなたの財産以上の金額を回収する権利があるため、ハードシップ免責か自己破産のうち、より多くの金額を回収できる手段が選択されることになります。
そのため、ハードシップ免責を認めてもらうためには、自己破産した場合よりも高い金額を返済することが条件になるのです。たとえば、
- 借金総額:500万円
- 清算価値:100万円
という場合に、個人再生(小規模個人再生)すると、借金は100万円まで減額されます。
このとき、すでに75万円以上返済している状態であれば、ハードシップ免責の条件の1つである「再生計画で定めた借金総額の3/4以上を返済している」を満たすことが可能です。
しかし、清算価値が100万円であるため、自己破産した方が支払う金額は多くなるので、ハードシップ免責は認められないことになります。
4つの条件を全て満たした上で裁判所に申し立て
ここまで紹介した4つの厳しい条件を全て満たした状態で、ようやく裁判所に申し立てを行えるようになります。
その際、「免責申立書」と「返済できない理由を証明する書類」の2つの書類を併せて提出し、裁判所の判断を待つことになるのです。
裁判所はカード会社の意見なども聞いた上で、免責を認可するかどうか決めていきます。
その結果、裁判所が認可すれば、見事ハードシップ免責が確定することになるのです。

まとめ
- ハードシップ免責とは、なんらかの理由により個人再生後の借金返済が不可能になった人を対象に、一定の条件を満たすことで裁判所から残りの借金を免責してもらえる制度
- ハードシップ免責は、申請条件が非常に厳しいため、実際に利用されることはほとんどない
- ハードシップ免責の認可を受けた場合には、住宅ローンも免責対象となるため、残りの住宅ローンが全てチャラになるが、自宅は失うことになる
- ハードシップ免責を認めてもらうためには、以下4つの条件を全て満たすことが必須
└あなたに責任のない事情によって再生計画通りの借金返済が不可能な状態
└再生計画による借金の返済期間を延長しても返済が不可能な状態
└再生計画で定めた借金総額の3/4以上を返済している
└ハードシップ免責の決定がカード会社の一般の利益に反しない