「個人再生すると生命保険は解約になるのか?」
「生命保険の解約返戻金は清算価値に加算される?!」
大幅に借金を減額してもらえる個人再生ですが、「契約している生命保険を解約されるのでは?」と思う人も多いようです。
しかし、結論から言いますと、個人再生しても生命保険を解約する必要はありません。
ただし、貯蓄型の生命保険などで「解約返戻金」が戻ってくる場合には、そちらを財産(清算価値)として計上する必要があるため注意が必要です。
個人再生には、借金を大幅に減額してもらえる代わりに、あなたの財産以上の金額を返済しなくてはいけない「清算価値保証の原則」と呼ばれるルールがあります。
したがって、解約返戻金は財産に該当するため清算価値に加算され、個人再生後の返済額に影響するのです。
そのため、貯蓄型の生命保険に入っている人が個人再生する場合には、解約返戻金がどの程度戻ってくるのか、裁判所に申告する必要があります。
今回は、個人再生と生命保険の関係を、清算価値や解約返戻金などの説明も交えながら解説したいと思います。

目次
個人再生すると生命保険は解約になるのか
個人再生しても生命保険を解約する必要はありません。
ただし、借金返済用の資金確保のために、保険を解約して返済に充てるというケースは考えられるでしょう。
個人再生とはどのような手続きなのか
個人再生で生命保険がどのような扱いになるのか理解してもらうために、そもそも個人再生がどのような手続きなのか、簡単に説明しておきます。
個人再生の概要
個人再生とは、裁判所に申し立てすることで借金を10~20%程度まで減額してもらえ、その残りを原則3年間で返済できれば、完済扱いにしてもらえる債務整理(借金問題を法的に解決するための手続き)の一種です。
個人再生における清算価値保障の原則
個人再生すると借金を大幅に減額してもらえますが、その代わりにあなたの財産以上の金額は返済しなくてはいけません。
個人再生において、財産は「清算価値」と呼ばれていることから、このルールを「清算価値保証の原則」と呼びます。
また、このとき返済すべき金額が、「最低弁済額」と呼ばれるものです。
したがって、あなたが300万円の財産を保有していた場合には、個人再生しても300万円以上は返済しなくてはいけないことになります。
そのため、個人再生の申し立てをする際には、あなたが保有している財産を裁判所に申告しておく必要があるのです。
解約返戻金と個人再生の清算価値について
個人再生する際、貯蓄型の生命保険をかけている場合には、清算価値に影響するため注意が必要です。
生命保険の種類によって扱いが異なる
生命保険には、いわゆる「掛け捨て型」のものと「貯蓄型」の大きく2種類があります。
掛け捨て型の生命保険は解約してもお金が戻ってこないため、清算価値には該当しません。
しかし、貯蓄型の生命保険に加入している場合には、解約時などに「解約返戻金」が戻ってくるため、清算価値として計上する必要があるのです。
貯蓄型の生命保険の例としては、終身保険、学資保険、養老保険、個人年金保険などが挙げられます。
生命保険の解約返戻金
生命保険の解約返戻金とは、保険金の払い込み終了時や解約時に、保険会社から戻ってくるお金です。
掛け捨て型の生命保険は、毎月の保険料が安い代わりに解約しても一切お金は戻ってきませんが、貯蓄型の生命保険には、毎月の保険料が高い代わりに解約返戻金が戻ってくるというメリットがあります。
たとえば、貯蓄型の終身保険や学資保険であれば、払い込み額の80~90%程度が解約返戻金として戻ってくるのが一般的です。
途中解約すると解約返戻金が安くなる「低解約返礼型保険」の場合でも、70%程度は戻ってくるでしょう。
たとえば、月3万円の貯蓄型学資保険を5年間支払っていた場合には、「3万円 × 12カ月 × 5年 = 180万円」となり、このとき80%が戻ってくるとすると、解約返戻金は144万円になります
したがって、清算価値に144万円を追加計上する必要があるのです。
ただし、生命保険の中には、掛け捨て型と貯蓄型が混ざったバイブリット型の生命保険もあります。この場合も清算価値に影響する可能性が高いため、個人再生をする際には注意が必要です。
解約返戻金がある保険に加入している人が個人再生した事例
では、解約返戻金がある人が個人再生した事例を紹介します。
借金額:500万円 財産:30万円 解約返戻金:50万円
個人再生の小規模個人再生(個人再生する人のほとんどが行う手続き)では、法定最低弁済額(法律によって借金額に応じて借金の減額率が決められたもの)と清算価値のいずれか多い方の金額を返済する必要があります。
借金額が500万円の場合、法定最低弁済額は100万円です。
いっぽう、清算価値は財産50万円と解約返戻金50万円を足した80万円となるため、「法定最低弁済額:100万円 > 清算価値:80万円 」ということで、返済額は100万円となります。
借金額:500万円 財産:50万円 解約返戻金:100万円
次は、先ほどより若干解約返戻金が多い事例を紹介します。
借金額が500万円の場合、法定最低弁済額は100万円です。
いっぽう、清算価値は、財産50万円と解約返戻金100万円を足した150万円となるため、「法定最低弁済額:100万円 < 清算価値:150万円」ということで、返済額は150万円となります。
借金額:500万円 財産:150万円 解約返戻金:300万円
最後に、かなり極端な例も紹介しておきます。
借金額が500万円の場合、法定最低弁済額は100万円です。
いっぽう、清算価値は、財産150万円と解約返戻金300万円を足した450万円となるため、「法定最低弁済額:100万円 < 清算価値:450万円」ということで、返済額は450万円となります。
この場合には、個人再生しても50万円しか借金が減らないため、かなり微妙な結果と言わざるを得ないでしょう。
また、個人再生では、裁判所に減額された借金を3年間で返済できないと判断された場合には、再生計画案が認可されない可能性も高くなってきます。
そのため、こうした事例では、保険を解約して解約返戻金を借金に充当させるのが得策といえるのです。

個人再生する場合に生命保険を解約した方がよいケース
前述した通り、個人再生の際、必ずしも生命保険を解約する必要はありません。
しかし、状況によっては、生命保険を解約した方がよい場合もあります。
最低弁済額が高額になる場合
解約返戻金がある生命保険に加入している人が個人再生した場合には、最低弁済額は高くなりますが、返済可能であれば保険を解約する必要はありません。
しかし、3年間(最大5年間)の返済期間でも、借金を完済できる見込みがない場合には、保険を解約して返済に充てるべきでしょう。
再生計画案に要解約が条件になっている場合
前述したように、個人再生したからといって、必ずしも生命保険を解約する必要はありません。
ただし、再生計画案の中で、「生命保険を解約しない」旨が触れられており、これを裁判所に認めてもらうことが大前提となります。
したがって、再生計画案に「生命保険を解約すること」、「解約返戻金を借金の返済に充てること」などが書かれている場合には、保険を解約する必要があるのです。
しかし、実際に個人再生をする際には、生命保険を解約すべきか否かの判断がつきづらいこともあると思います。
ですので、手続きを委任する弁護士や司法書士といった専門家に、事前に相談するとよいでしょう。
個人再生における契約者貸付の扱いについて
生命保険には、「契約者貸付」と呼ばれる、解約返戻金の一部を担保にお金を借りられる制度があります。
契約者貸付の金額は、解約返戻金の7~8割程度が上限に設定されており、金利も低く設定されているのが一般的です。
ただし、契約者貸付は個人再生の減額対象には該当しません。
なぜなら、契約者貸付はあなたの財産である解約返戻金の一部を前借しているに過ぎず、借金ではないからです。
そのため、個人再生する際には、解約返戻金の総額から契約者貸付で借りた金額を差し引いた分を清算価値として計上する必要があります。
個人再生後でも生命保険に加入できる
よく「個人再生すると生命保険に加入できなくなるのか?」という質問を受けるのですが、結論から言えば、個人再生した後でも生命保険に加入できます。
個人再生すると、信用情報機関が管理する信用情報に事故情報として登録されるため、5年~10年程度の期間、カード会社(クレジットカード会社・消費者金融・銀行)から新たな借入ができなくなる、いわゆる「ブラックリストに載った」状態になります。
しかし、保険の加入に関しては、信用情報の影響はないため、個人再生後でも問題なく生命保険に加入できるのです。
ただし、保険料の支払いが滞った場合には、保険が失効される可能性もあります。
なお、信用情報とは、カード会社と顧客の取引履歴や債務整理の事実などが記録された情報で、信用情報機関とは、カード会社と顧客が適正に取引できるように活動するCICなどの機関のことです。

まとめ
- 個人再生しても生命保険を解約する必要はない
- 個人再生ですると借金を大幅に減額してもらえますが、その代わりにあなたの財産以上の金額を返済する必要がある。個人再生において、財産は「清算価値」と呼ばれていることから、このルールを「清算価値保証の原則」と呼ぶ
- 貯蓄型の生命保険に加入している場合には、解約時などに「解約返戻金」が戻ってくるため、清算価値として計上する必要がある
- 生命保険の解約返戻金とは、保険金の払い込み終了時や解約時に、保険会社から戻ってくるお金
- 再生計画案に「生命保険を解約すること」、「解約返戻金を借金の返済に充てること」などが書かれている場合には、保険を解約する必要がある
- 契約者貸付は個人再生の減額対象には該当しない
- 個人再生した後でも、問題なく生命保険に加入できる